礼拝メッセージ
(インマヌエル中目黒キリスト教会)

 
聖書の言葉は旧新約聖書・新改訳聖書第三版(著作権・新日本聖書刊行会)によります。
 
2011年7月10日
 
「不公正を正す」
ネヘミヤ記連講(10)
 
竿代 照夫 牧師
 
ネヘミヤ記5章1-13節
 
 
[中心聖句]
 
  9   私は言い続けた。「あなたがたのしていることは良くない。あなたがたは、私たちの敵である異邦人のそしりを受けないために、私たちの神を恐れながら歩むべきではないか。」
(ネヘミヤ5章9節)


 
聖書テキスト
 
 
1 ときに、民とその妻たちは、その同胞のユダヤ人たちに対して強い抗議の声をあげた。2 ある者は、「私たちには息子や娘が大ぜいいる。私たちは、食べて生きるために、穀物を手に入れなければならない。」と言い、3 またある者は、「このききんに際し、穀物を手に入れるために、私たちの畑も、ぶどう畑も、家も抵当に入れなければならない。」と言った。4 またある者は言った。「私たちは、王に支払う税金のために、私たちの畑とぶどう畑をかたにして、金を借りなければならなかった。現に、私たちの肉は私たちの兄弟の肉と同じであり、私たちの子どもも彼らの子どもと同じなのだ。それなのに、今、私たちは自分たちの息子や娘を奴隷に売らなければならない。事実、私たちの娘で、もう奴隷にされている者もいる。しかし、私たちの畑もぶどう畑も他人の所有となっているので、私たちにはどうする力もない。」6 私は彼らの不平と、これらのことばを聞いて、非常に怒った。
7 私は十分考えたうえで、おもだった者たちや代表者たちを非難して言った。「あなたがたはみな、自分の兄弟たちに、担保を取って金を貸している。」と。私は大集会を開いて彼らを責め、8 彼らに言った。「私たちは、異邦人に売られた私たちの兄弟、ユダヤ人を、できるかぎり買い取った。それなのに、あなたがたはまた、自分の兄弟たちを売ろうとしている。私たちが彼らを買わなければならないのだ。」すると、彼らは黙ってしまい、一言も言いだせなかった。9 私は言い続けた。「あなたがたのしていることは良くない。あなたがたは、私たちの敵である異邦人のそしりを受けないために、私たちの神を恐れながら歩むべきではないか。10 私も、私の親類の者も、私に仕える若い者たちも、彼らに金や穀物を貸してやったが、私たちはその負債を帳消しにしよう。11 だから、あなたがたも、きょう、彼らの畑、ぶどう畑、オリーブ畑、家、それにまた、あなたがたが彼らに貸していた金や、穀物、新しいぶどう酒、油などの利子を彼らに返してやりなさい。」12 すると彼らは、「私たちは返します。彼らから何も要求しません。私たちはあなたの言われるとおりにします。」と言った。そこで、私は祭司たちを呼び、彼らにこの約束を実行する誓いを立てさせた。
13 私はまた、私のすそを振って言った。「この約束を果たさない者を、ひとり残らず、神がこのように、その家とその勤労の実とから振り落としてくださいますように。このように、その者は振り落とされて、むなしい者となりますように。」すると全集団は、「アーメン。」と言って、主をほめたたえた。こうして、民はこの約束を実行した。
 
はじめに
 
 
4章は、エルサレム城壁の再建という歴史的大事業に取組んだ総督ネヘミヤとそのサポーター達が、様々な反対にめげず工事を進めた様子を学びました。5章の問題は、より厄介な内部分裂の課題です。私たちは、外から攻撃されると、一つになって戦うことが出来ますが、外からの攻撃が一段落すると、今度は内部分裂・不一致という難しい問題が起きてしまいます。これは、どの世界でも起きる共通的課題でしょう。
 
1.貧しい民の悲鳴(1−5節)
 
 
・民の四重苦:
エルサレム城壁という大工事に当たっている人々は決してお金持ちばかりではありませんでした。いや、むしろ貧しい人々が殆どでした。@何しろ祖国を70年近く離れて、着の身着のままで帰国したのがこの住民の父や祖父達でしたから、元々豊かな人々ではありませんでした。Aこの工事の前後に、「このききんに際し」とありますように、天候不順による不作の影響がありました。B加えて、ペルシャ政府からの厳しい税金の取り立てにも苦しんでいました。Cそしてその上に、普段の仕事を休んでこの工事に当たっていましたから、もっと貧しくなりました。いわば四重苦です。

・金持ちの搾取:
貧しい人々の困窮を助けるべき同胞が、助けるどころか、その困窮に付け込む形であくどい商売をしました。@貧しい人々が食料を求めたのに対して、金持ちは食料を与える代わりにその担保として、土地を提供させました。A土地だけでは足らず、その息子・娘を奴隷として売らねばならないところまで追い込みました。借金のかたに貸主の家で僕として働かされる可能性については、出21:1−11にも言及されています。

・その問題性:
@この状況の大きな問題点は、何よりも、金持ち階級の人々の同胞意識の欠如にありました。目的意識の欠如にもありました。エルサレムの城壁を再建すること、それによって神を中心とした共同社会を築き上げると言う共通目的を持っているならば、それに向かって進んでいく同胞意識を持つべきでした。それを表すべきでした。目的意識を共有すべきでした。彼らは頭の中ではそれを頷いていたのでしょうが、実際の行動は、貧しい人を踏み躙るものでした。Aもっと大きな問題は、ユダヤ人社会では、同胞への利息を禁止されている(出22:25、申命記23:19-20)にも拘らず、高利貸しをしていたことです。11節に言及されている利子は、一ヶ月では1%、一年では12%となります。大変高額な利子です。つまり、高利貸しによって、神の掟に背きました。B何よりも、助け合うべき同胞を踏みつけたその無慈悲こそ非難されるべきでした。
 
2.ネヘミヤの怒りと金持ちへの非難(6−11節)
 
 
・ネヘミヤの怒り:
ネヘミヤは、彼を支えているはずのユダヤ人社会の内部において、このような深刻な亀裂が起きていたことに愕然としました。それ以上に「非常に怒り」ました。こんなことはあってはならない、あるはずがない、それなのに起きているという事実のゆえに彼は怒ったのです。これは正義の怒りです。クリスチャンは怒ってならないのではありません。主イエスも、人々の頑な、無慈悲、欲望に対して激しく怒りました。私たちは、自分の名誉が傷つけられた、自分の利益が損なわれた時に怒ります。しかし、これは飽くまで自分中心の怒りです。しかし主イエスの怒り、また、ネヘミヤの怒りは、社会的不公正に対する怒りでした。私たちは社会的不公正があらゆるところで行われていることに、もっと怒るべきであると思います。

・金持ちとは?:
ネヘミヤの非難の矛先は「おもだった者たちや代表者たち」でした。このネヘミヤ記では、「おもだった者たちや代表者たち」(コーリーム<確立した市民>とセガニーム<小さな集団の長:今日で言えば区会議員?>で、NIVでは、nobles and officials)がしばしば登場します。この組み合わせで登場するのは、2:16が最初です。@この人々は、概して(全面的とはいえないまでも)ネヘミヤに協力的でした。ネヘミヤが隠密行動でエルサレムの城壁を視察した時に(本当は知らせるべき相手でありながら)知らせなかった対象として「おもだった人たち(コーディーム)にも、代表者たち(セガニーム)」と列挙されています。敵を恐れず戦えと励ました対象もこの人々でした(4:14)。武装して工事を進めたときに、緊急連絡システムを訴えたのもこの人々でした(4:19)。ネヘミヤ総督と食事を共にしていたのもこの人々で、その人数は150人ほどでした(5:17)。エルサレムが整備された後に系図造りに加わったこと(7:5)、完成式に祝賀パレードに加わったこと(12:40)があります。A一方、面従腹背のようにして敵であるトビヤと通じていたのもこの人々でした(6:17)。同時に神殿の整備を怠って叱られていること(13:11)、安息日に商売をしてしかられていること(13:17)も記されています。まとめて言いますと、この主だった人々と代表者たちは、ネヘミヤのプロジェクトを理解し、協力はしてくれた、しかし、完全にネヘミヤのスピリットを理解していたのではなく、利己心に走り易い人々であり、ちょっと目を離すと利敵行為まで平気で行う人々でした。神の国にも、玉石混淆はあり得ます。主イエスも、天国には、麦も毒麦も一緒に育つと現実的に述べておられます。ネヘミヤの苦労が偲ばれます。

・金持ちへの非難:
ネヘミヤは感情的に怒ったのですが、その怒りをそのままぶつけたのではなく、「十分考えたうえで」明確な叱責を与えています。怒ることと叱ることは違うとよく言われます。親御さん方は、この区別をしっかり弁える必要があります。ネヘミヤは十分考えて、冷却期間を置き、事実を確かめ、状況を転換させるための緻密な計画を練った上で演説を行います。そうでなければ、彼の演説は、単なる鬱憤晴らしに終わったことでしょう。さて、ネヘミヤは金持ちを二つの点で非難します。@「あなたがたはみな、自分の兄弟たちに、担保を取って金を貸している。」という高利貸しについて、Aさらに、「自分の兄弟たちを売ろうとしている。」という非人道的な、そして神の御言に背く無慈悲な行動についてです。

・非難の理由:
ネヘミヤが非難した理由は、@彼らの行動を通して異邦人からのそしりを受けること(また、彼らから容易に攻撃されること)、A高利貸しと奴隷商売は、明らかに神の掟に背き、その点で神を恐れぬ行動であること、の二点でした。「あなたがたのしていることは良くない。あなたがたは、私たちの敵である異邦人のそしりを受けないために、私たちの神を恐れながら歩むべきではないか。」ここまで言われては、代表者たちはぐうの音も出ません。黙ってしまいました。

・明確な命令:
そこでネヘミヤは不公正を是正するための具体的な命令を下します。それは、@担保物件(特に土地)を返すこと、A高利の利子返還しなさいと言うものでした。「だから、あなたがたも、きょう、彼らの畑、ぶどう畑、オリーブ畑、家、それにまた、あなたがたが彼らに貸していた金や、穀物、新しいぶどう酒、油などの利子を彼らに返してやりなさい。」担保を返し、高利で取った利息を返還しなさいと言っているのです。借金の全面的な棒引きを指導はしていないように私は解釈します。これは、江戸時代にたびたび行われた徳政令とやや異なります。

・自分の行動の模範:
もっとも、ネヘミヤ自身は、自分が貸していた貸し金については、思い切って棒引きを宣言します。「10 私も、私の親類の者も、私に仕える若い者たちも、彼らに金や穀物を貸してやったが、私たちはその負債を帳消しにしよう。」もう一つ、彼は自分たちが決して贅沢で、高い地位を利用して私服を肥やしていることはないと言うことを14節以下で宣言します。(これは来週お話します)。こうした厳しい自己管理と祈りに裏付けられた確信が無ければ、改革は成功しません。
 
3.不公正の是正(12−13節)
 
 
・金持ち達の悔い改めと誓い:
彼らは、「私たちは返します。彼らから何も要求しません。私たちはあなたの言われるとおりにします。」と言った。そこで、私は祭司たちを呼び、彼らにこの約束を実行する誓いを立てさせた。

・ネヘミヤの念押し:
その誓いを実行させる前に、ネヘミヤはもう一度念を押します。「この約束を果たさない者を、ひとり残らず、神がこのように、その家とその勤労の実とから振り落としてくださいますように。このように、その者は振り落とされて、むなしい者となりますように。」ジェスチャーを交えて、言葉だけのイエスではいけないよと確認します。

・実行:
全集団は、「アーメン。」と言って、主をほめたたえた。こうして、民はこの約束を実行した。」のです。素晴らしいことです。
 
おわりに:不公正を是正する努力を
 
 
私たちの周りには、あらゆる不公正があります。不公正だらけの社会といえるでしょう。そのような中で、私たちは、ともすると、社会と言うものはこういうものだよと諦めていませんか。それを是認し、さらには加担していませんか。ネヘミヤの態度を学びたいと思います。

消極的には、不公正に加担しない、正直で潔癖な生活態度を貫くことであり、積極的には、可能な範囲で、そして適切な方法と態度で是正に努めることです。「可能な範囲で、そして適切な方法と態度で」と申しました。私たちは改革者ぶって、何もかも批判し、糾弾する一言居士になってはなりません。そうすることは主の聖名の栄にもなりませんし、実効も薄いことでしょう。でも、手の届く範囲内で、祈りつつ、適切で、しかも穏やかな方法で是正を提案し、実行していくことは必要です。クリスチャンの存在意義はそこにあります。ネヘミヤの祈りと知恵と勇気を学びましょう。
 
お祈りを致します。