礼拝メッセージ
(インマヌエル中目黒キリスト教会)

 
聖書の言葉は旧新約聖書・新改訳聖書第三版(著作権・新日本聖書刊行会)によります。
 
2015年9月13日
 
「パウロ、千人隊長に助けられる」
使徒の働き連講(63)
 
竿代 照夫 牧師
 
使徒の働き 21章26-40節、22章1-5節
 
 
[中心聖句]
 
  32   彼(千人隊長)はただちに、兵士たちと百人隊長たちとを率いて、彼らのところに駆けつけた。人々は千人隊長と兵士たちを見て、パウロを打つのをやめた。
(使徒の働き 21章32節)


 
はじめに:先週の纏め
 
 
・エルサレムでの歓迎:
先週は、第三次伝道旅行を終えてエルサレムに戻ったパウロが、エルサレム教会に暖かく歓迎された記事から、「人に受け入れられることは格別の恵みである」という真理を学びました。主題聖句は「エルサレムに着くと、兄弟たちは喜んで私たちを迎えてくれた。」(使徒の働き21:17)でした。

・パウロに対する誤解:
ただ、すべての人が彼を心から受け入れた訳ではなく、疑問や偏見を持っている人々もいました。彼らは、パウロがユダヤ人に対して割礼を施すな、律法を守るなと、反律法主義を唆しているというのです。

・ヤコブの提案とパウロの行動:
ヤコブはこうした反対者を意識しながら、パウロが律法を遵守していることを行動で示すようにと提案しました。具体的には、ナジル人としての誓いを立てている4人に加わって、ナジル人らしく行動し、期間が過ぎたら生贄の費用を代行してあげなさいというものでした。
 
A.誓願のための宮参りと騒動(26−30節)
 
 
「26 そこで、パウロはその人たちを引き連れ、翌日、ともに身を清めて宮にはいり、清めの期間が終わって、ひとりひとりのために供え物をささげる日時を告げた。27 ところが、その七日がほとんど終わろうとしていたころ、アジヤから来たユダヤ人たちは、パウロが宮にいるのを見ると、全群衆をあおりたて、彼に手をかけて、28 こう叫んだ。『イスラエルの人々。手を貸してください。この男は、この民と、律法と、この場所に逆らうことを、至る所ですべての人に教えている者です。そのうえ、ギリシヤ人を宮の中に連れ込んで、この神聖な場所をけがしています。』29 彼らは前にエペソ人トロピモが町でパウロといっしょにいるのを見かけたので、パウロが彼を宮に連れ込んだのだと思ったのである。30 そこで町中が大騒ぎになり、人々は殺到してパウロを捕え、宮の外へ引きずり出した。そして、ただちに宮の門が閉じられた。」
 
・四人の仲間とパウロの宮参り:
さて、パウロは、ヤコブの示唆を忠実に実行するために神殿に行き、そこでの1週間をきよめのために費やし、その儀式が終わろうとするところまで来ました。

・アジヤから来たユダヤ人の扇動(絵図@参照):
儀式が終わる頃、アジヤから来たユダヤ人、つまり、パウロの伝道を至る所で妨げ、しかも、しつこくエルサレムまでやってきたユダヤ人たちが叫びます。「このパウロは律法に逆らう人間であり、神殿も要らないという過激な教えを説いている、しかも、異邦人を(「異邦人の庭」という区域に限定されたところではなく)神殿の内庭に連れ込んで、神殿の神聖さを犯している」と叫んだのです。

・騒動の発生:
ユダヤ人たちの非難は、パウロが町で異邦人クリスチャンであるトロピモといっしょに歩いていたことと、神殿でユダヤ人とともに誓願を立てていたこととを混同したのです。群衆は、この言いがかりの真偽を確かめる前に、騒ぎ始めました。群衆とはそのようなものです。
 
B.千人隊長の助け(31-36節)
 
 
「31 彼らがパウロを殺そうとしていたとき、エルサレム中が混乱状態に陥っているという報告が、ローマ軍の千人隊長に届いた。 32 彼(千人隊長)はただちに、兵士たちと百人隊長たちとを率いて、彼らのところに駆けつけた。人々は千人隊長と兵士たちを見て、パウロを打つのをやめた。 33 千人隊長は近づいてパウロを捕え、二つの鎖につなぐように命じたうえ、パウロが何者なのか、何をしたのか、と尋ねた。 34 しかし、群衆がめいめい勝手なことを叫び続けたので、その騒がしさのために確かなことがわからなかった。そこで千人隊長は、パウロを兵営に連れて行くように命令した。 35 パウロが階段にさしかかったときには、群衆の暴行を避けるために、兵士たちが彼をかつぎ上げなければならなかった。36 大ぜいの群衆が「彼を除け。」と叫びながら、ついて来たからである。」
 
・パウロを殺そうとした群衆:
群衆は、見境なくパウロを打ち始めました。レスキューが一秒でも遅れれば、パウロは殴り殺されていたことでしょう。

・エルサレム駐屯のローマ兵(絵図A、B参照):
パウロが群衆につかまって、殴り殺されそうになった時、その報告がエルサレムの治安を担当しているローマ軍の司令官(千人隊長)に届きました。先ほどの絵図@を思い出してください。神殿構内の北西部にアントニアの塔という大きな兵営がありました。
@アントニア塔は元来エルサレム補強のために建てられた(BC2世紀):
これは元々BC2世紀頃、イスラエル独立運動の最中にエルサレムを補強するために建てられたものです。
Aヘロデ大王が神殿を拡張した時、構内の一部となった:
その後、ヘロデ大王がエルサレムの神殿を拡大して立派なものに立て直して、(拡大した)神殿構内に取り入れたのです。ヘロデは、カエサルの後ローマを指導していたアントニウスに因んでアントニアの塔と名付けました。更にヘロデは、兵営の南東に高い塔を立て、それで神殿構内を良く見張れるようにしました(絵図A参照)。

Bローマが支配してから歩哨兵が常駐:
この塔は、ローマがパレスチナを支配するようになって、一個大隊が駐屯する大切な兵営となりました。特に過ぎ越しの祭りとかペンテコステの祭りに大勢のユダヤ人が神殿構内を埋め尽くすときには、神殿の壁の上にはローマ歩哨兵が武装して構内を見張る態勢を取っていました(絵図B参照)。

・千人隊長のレスキュー:
@千人隊長クラウデオ・ルシヤは、レスキュー隊を率いて現場に急行:
このような見張り兵から、神殿構内に騒動が起きているという報告を受けた千人隊長は、すぐにレスキュー隊(兵士たちと百人隊長たち)を率いて現場に向かいます。後の説明によると、この隊長の名前は、クラウデオ・ルシヤです(23:26)。アントニアの塔と神殿の庭を結ぶ階段が二つあって、その近い方の階段を下りて急行したのです。人々は千人隊長と兵士たちを見て、パウロを打つのをやめました。
Aパウロを捕縛:
千人隊長は近づいてパウロを捕え、二つの鎖(手錠で右左の兵士によって)につなぐように命じたうえ、パウロが何者なのか、何をしたのか、と尋ねました。しかし、群衆がめいめい勝手なことを叫び続けたので、その騒がしさのために確かなことがわからりませんでした。そこで千人隊長は、パウロを兵営に連れて行くように命令しました。
B絶妙なタイミングは祈りの答え(ローマ15:30−31):
このようなレスキュ−活動は、ローマ軍の治安維持活動のマニュアルに沿ったものかもしれませんが、このタイミングでしかも迅速にパウロが助け出されたのは、奇跡としか言いようがありません。千人隊長が特に信仰深い人だったわけではなく、自分の任務に忠実であっただけなのですが、主はこのような人を備えて神の人を救い出されたのです。私は思います。パウロは祈られていた人であると。ローマのクリスチャンたちは、「私のために、私とともに力を尽くして祈ってください。私がユダヤにいる不信仰な人々から救い出され、またエルサレムに対する私の奉仕が聖徒たちに受け入れられるものとなりますように。」(ローマ15:30−31)というパウロの要請に応えて、必死に祈り続けていたと思います。その祈りが答えられたのです。

・兵営の階段でのもみ合い:
さて、パウロがアントニアの塔に階段にさしかかったときには、群衆の暴行を避けるために、兵士たちが彼をかつぎ上げなければならなかったのです。というのは、大ぜいの群衆が「パウロを除け。」と叫びながら、ついて来たからである。パウロが屈強なローマ兵士に担ぎ上げられて逃れる姿を想像してみてください。ローマ兵士としても、パウロに義理があるわけでなく、信心深かったからでもありません。ただ上官の命令に従って行動しただけなのです。でも、ここにも神の配剤を汲み取れないでしょうか。
 
C.パウロ、弁明の許可を得る
 
 
「37 兵営の中に連れ込まれようとしたとき、パウロが千人隊長に、「一言お話ししてもよいでしょうか。」と尋ねると、千人隊長は、「あなたはギリシヤ語を知っているのか。 38 するとあなたは、以前暴動を起こして、四千人の刺客を荒野に引き連れて逃げた、あのエジプト人ではないのか。」と言った。 39 パウロは答えた。「私はキリキヤのタルソ出身のユダヤ人で、れっきとした町の市民です。お願いです。この人々に話をさせてください。」 40 千人隊長がそれを許したので、パウロは階段の上に立ち、民衆に向かって手を振った。そして、すっかり静かになったとき、彼はヘブル語で次のように話した。」
 
・パウロは、無難な決着よりも証しの機会を願った:
アントニアの塔の中に入れられようとしたパウロは、そこで安堵しても良かったのですが、敢えて荒れ狂ったユダヤ人に対する発言を求めます。パウロとしては、ここで兵営に入って隊長から尋問され、そして多分無罪となるという無難な決着ではなく、自分を殺そうとしたユダヤ人に証の機会を持ちたかったのです。体のあちこちから血が出ていて、見るも無残な状況でしたが、どうしても証しをしたかったのです。

・千人隊長は、パウロのギリシャ語に驚く(テロリストとの誤解が解ける):
パウロは、このリクエストを流ちょうなギリシャ語で隊長に行いました。隊長は驚きました。この隊長はどうやらローマ人ではなくギリシャ人であったらしく(22:28)、パウロのギリシャ語の流暢さに驚きます。千人隊長は、パウロのことを誤解していました。3年ほど前世間を騒がせたエジプト人テロリストと思っていたのです。(この男の活動については、歴史家であるヨセフスも言及しています。)パウロはそれを否定します。そしてもう一度発言の機会を求めます。パウロの流ちょうなギリシャ語を聞いて、千人隊長は認識を新たにし、それを許します。

・群衆は、パウロのアラム語に驚く(根なし「国際人」との誤解が解ける):
パウロは、今度は流ちょうなへブル語(当時は少し訛ったアラム語でしたが)で話し始めます。びっくりしたのはユダヤ人たちです。彼らもパウロのことを誤解していました。外国生まれで、外国で活躍し、ヘブル語はメタメタのコスモポリタンと思っていたからです。その男がきれいなアラム語でしゃべり始めるものですから、荒れ狂っていた群衆は水を打ったように静かになりました。パウロは、手を上げて群衆にアッピールいたします。こんな描写は、現場にいたものでなければできません。
 
D.パウロ、自分の過去の過ちを告白する(22章1―5節)
 
 
22:1 「兄弟たち、父たちよ。いま私が皆さんにしようとする弁明を聞いてください。」2 パウロがヘブル語で語りかけるのを聞いて、人々はますます静粛になった。そこでパウロは話し続けた。3 「私はキリキヤのタルソで生まれたユダヤ人ですが、この町で育てられ、ガマリエルのもとで私たちの先祖の律法について厳格な教育を受け、今日の皆さんと同じように、神に対して熱心な者でした。4 私はこの道を迫害し、男も女も縛って牢に投じ、死にまでも至らせたのです。5 このことは、大祭司も、長老たちの全議会も証言してくれます。この人たちから、私は兄弟たちへあてた手紙までも受け取り、ダマスコへ向かって出発しました。そこにいる者たちを縛り上げ、エルサレムに連れて来て処罰するためでした。」
 
・パウロは生粋のユダヤ人としての生い立つ:
群衆の静粛さに力づけられて、パウロは自分の生い立ちから証を始めます。外国生まれでありながら、エルサレムで育ち、しかも、当時の一級の律法学者であるガマリエルの門下生であり、律法を守ることに厳格であり、神に対して熱心であったことを諄々と語ります。群衆は、益々静かになります。

・律法への熱心ゆえにキリスト教を迫害した:
続いてパウロは、キリスト教を迫害したことを隠さずに語ります。その迫害すらも、律法への熱心に突き動かされたものであったことを証します。その続きは次回に致します。
 
おわりに:神は、私たちが使命を果たすまで私たちの生命を保たれる、そのためには異教徒をも動員される、との事実に平安を見出そう
 
 
パウロは、命を助けられました。それも神を信じていない異教徒によってです。興味深い物語ですね。神様を信じていれば、どんな時にも危険から守られるというような単純で、事実に反するメッセージを語る積りはありません。実際、この出来事から10年後、パウロは、この時パウロを助けた同じローマ帝国によって死刑にされるのですから。しかし、私たちがここで汲み取ることができるレッスンがあるように思います。主が私たちの生涯を通してご自分の使命を果たそうと思っておられる間は、神を知らない人々をも動かしてでも、私たちの命を守られるという事実です。この信仰に立つ限り、恐れから解放され平安が与えられます。そうではないでしょうか?主を信じましょう。
 
お祈りを致します。