礼拝メッセージ
(インマヌエル中目黒キリスト教会)

 
聖書の言葉は旧新約聖書・新改訳聖書第三版(著作権・新日本聖書刊行会)によります。
 
2016年5月29日
 
「髪一筋さえ失わない」
使徒の働き連講(73)
 
竿代 照夫 牧師
 
使徒の働き 27章27節 - 28章1節
 
 
[中心聖句]
 
  34   あなたがたの頭から髪一筋も失われることはありません。
(使徒の働き 27章34節)


 
前回までのおさらい:
 
 
・パウロは囚人としてローマに送られた(地図参照):
イースター・ペンテコステと特別講壇が続いて3か月近く経ってしまいました。前回は、囚人としてローマに送られた船旅の前半をお話ししました。

・船は大嵐に遭った:
旅の途中で、船は大嵐にぶつかります。パウロを護送するために任命されたローマの軍団が選んだのが、ルキヤのミラからローマに向かうアレキサンドリヤ発の小麦輸送船です。冬が近づいていたため、クレタ島で春を待つことにしたのですが、越冬のために選んだ港へ行く途中、ユーラクロンという台風に出会い、西へ西へと流されていきます。

・危機の中で、パウロは「船長」のように人々を励ました:
船が沈没しそうになるという危機に遭って、パウロはその信仰のゆえに「船長」的なリーダーシップを発揮します。パウロは、嵐の只中で祈り、その祈りの中で、主からの約束を与えられました。「恐れてはいけません。パウロ。あなたは必ずカイザルの前に立ちます。そして、神はあなたと同船している人々をみな、あなたにお与えになったのです。」パウロはこの約束を同船の人々に告げ、自分の言葉を付け加えます「神の語り給うことは必ず成就するから安心しなさい」と。私たちも、その置かれた状況において、主の励ましのゆえに人々を励ます役割を与えられているのです。さて、今日はその続きです。神の約束が具体的にどう成就したかの記録が生々しく記されている所です。
 
1.陸地への接近(27〜32節)
 
 
「十四日目の夜になって、私たちがアドリヤ海を漂っていると、真夜中ごろ、水夫たちは、どこかの陸地に近づいたように感じた。水の深さを測ってみると、四十メートルほどであることがわかった。少し進んでまた測ると、三十メートルほどであった。どこかで暗礁に乗り上げはしないかと心配して、ともから四つの錨を投げおろし、夜の明けるのを待った。ところが、水夫たちは船から逃げ出そうとして、へさきから錨を降ろすように見せかけて、小舟を海に降ろしていたので、パウロは百人隊長や兵士たちに、『あの人たちが船にとどまっていなければ、あなたがたも助かりません。』と言った。そこで兵士たちは、小舟の綱を断ち切って、そのまま流れ去るのに任せた。」
 
・陸地が近づく:
約二週間、嵐と戦った末に、どうやらイタリア半島の南端へと近づいてしまいました。海が泡立ち、陸地の近いことを悟った水夫たちは、錘のついた糸を垂れて水深を計りました。最初が40メートル、次が30メートル、刻々と陸が近づいてきます。ごつごつした岩も見え隠れするようになりました。水夫たちは座礁を恐れて錨を下ろし、船を一度落ち着かせます。

・水夫たちの逃亡を止める(イラスト@):
その後、水夫たちは驚くような行動に出ます。錨を下ろすように見せかけて、ボートを下ろし、それに乗り込もうとしたのです。船を見捨てて自分たちだけ助かろうとしたわけです。

それを素早く見抜いたパウロは叫びます。「百人隊長!ボートをつないでいる綱を早く切ってください。水夫たちがいなくなったら、この船はおしまいです」ここでもパウロは正に船長を演じています。危機の時に信仰者はこのような果断さをもって振舞う必要があります。隊長の命令でボートをつなぐ綱が切られ、ボートは波間に消えました。一件落着です。
 
2.上陸の準備(33〜38節)
 
 
「ついに夜の明けかけたころ、パウロは、一同に食事をとることを勧めて、こう言った。『あなたがたは待ちに待って、きょうまで何も食べずに過ごして、十四日になります。ですから、私はあなたがたに、食事をとることを勧めます。これであなたがたは助かることになるのです。あなたがたの頭から髪一筋も失われることはありません。』こう言って、彼はパンを取り、一同の前で神に感謝をささげてから、それを裂いて食べ始めた。そこで一同も元気づけられ、みなが食事をとった。船にいた私たちは全部で二百七十六人であった。十分食べてから、彼らは麦を海に投げ捨てて、船を軽くした。」
 
・パウロの勧め(イラストA)(「朝食をしっかりとりましょう」):
翌朝、パウロは同船の船長と水夫たち、百人隊長と兵士たち、船客と囚人たち合計276人を甲板に集め、朝食を提案します。神妙に集まった全員に語り掛けます。「私たちはもう2週間も飲まず食わずで嵐と戦ってきました。でももうこれで最後です。私たちは皆助かります。でも腹が減っては戦ができませんから、みんな腹いっぱい食べて元気をつけてください。」

・パウロの約束(「髪一筋も失われない」):
パウロは更に「神様は、私たちの頭から髪の毛一本も失われないと約束してくださいましたから」とつづけました。そして「さあ祈りましょう」と祈りを導きます。「神様、ここまで守って下さったことを感謝します。これから頂く朝食を祝福してください。アーメン」キリストを知らない人々がアーメンと言ったかどうかは分かりませんが、みんなで美味しくいただきました。

・上陸の準備:
この朝食が終わるや否や、残りの食糧と少し取っていた麦をきれいさっぱりと海に捨てました。船を少しでも軽くするためです。
 
3.陸地への漂着(39〜44節、28:1)
 
 
「夜が明けると、どこの陸地かわからないが、砂浜のある入江が目に留まったので、できれば、そこに船を乗り入れようということになった。錨を切って海に捨て、同時にかじ綱を解き、風に前の帆を上げて、砂浜に向かって進んで行った。ところが、潮流の流れ合う浅瀬に乗り上げて、船を座礁させてしまった。へさきはめり込んで動かなくなり、ともは激しい波に打たれて破れ始めた。兵士たちは、囚人たちがだれも泳いで逃げないように、殺してしまおうと相談した。しかし百人隊長は、パウロをあくまでも助けようと思って、その計画を押え、泳げる者がまず海に飛び込んで陸に上がるように、それから残りの者は、板切れや、その他の、船にある物につかまって行くように命じた。こうして、彼らはみな、無事に陸に上がった。こうして救われてから、私たちは、ここがマルタと呼ばれる島であることを知った。」
 
・船が座礁してしまう:
船は或る入江に面していました。今は、聖パウロ湾と呼ばれています。ので、そこを上陸地点と定め、錨切り捨て、帆をしっかり挙げて、風のまにまに砂浜に突っ込んでいきました。息詰まる一瞬です。しかし、ガキーンという鋭い音と共に、船が止まりました。海岸近くの岩に座礁したのです。岩に打ちつける波が船をも打ちつけ、船は解体を始めました。

・囚人殺害計画を百人隊長が止める:
ここでまた事件が起きました。囚人を護送していた兵隊たちが、囚人たちの脱走を恐れて、この機会に囚人全部を殺害しようと計画を立て始めたのです。ローマの兵隊にとって、囚人を脱走させてしまうことは、自分の命をもって償うべき重大な失敗だったからです。一難去ってまた一難、この計画を未然に防いだのは、百人隊長ユリウスでした。彼は、パウロを救いたい一心から、この計画をやめさせました。それだけではなく、全員が生き延びられるように命令を下しました。

・全員が海に飛び込んで岸まで泳ぐ(イラストB):
「泳ぎに自信のあるものは、すぐに飛び込んで、岸までたどり着け。自信のないものは、板切れを渡すから、それに必死に?まって足だけバタバタさせて泳ぎ切りなさい。さあ、一、二、の三!」とみんなの尻を叩きました。一同必死の思いで泳ぎ切り、276人の内誰一人溺れないで、無事岸にたどり着きました。パウロは多分泳ぎが得意だったことでしょう(2コリント11:25)。使徒の働きの記者ルカもその一人でした。安堵の思いでこの記事を書いたことでしょう。

・マルタ島であることを発見(マルタ島の地図):
たどり着いた陸地が、イタリア半島南端のシシリヤ島のさらにその南から80km離れたマルタという小島であることを知ったのは、上陸間もなくのことでした。近代になってイギリス領となりましたが、今は独立してマルタ共和国になっています。

 
おわりに:私たちの髪の毛一本まで保ち給う主を信じよう
 
 
パウロが「髪一筋も」と言った背景には、主イエスの御言葉があります。マタイ10:29〜31を読みましょう。「二羽の雀は一アサリオンで売っているでしょう。しかし、そんな雀の一羽でも、あなたがたの父のお許しなしには地に落ちることはありません。また、あなたがたの頭の毛さえも、みな数えられています。だから恐れることはありません。あなたがたは、たくさんの雀よりもすぐれた者です。」神は私たちの髪の毛の数もみんなご存じであり、神のみ許しなしに、その一本も落ちないと言っているのです。(私の場合には、とても数えやすいことでしょうが・・・)主のみ守りと顧みを信じましょう。その愛の御手に委ねる平安を保ち、憩わせていただきましょう。
 
お祈りを致します。